大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9853号 判決

甲事件原告

山本マリ子

乙事件原告

山本正博

両事件被告

阪急写真工業株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、甲事件原告に対し、連帯して金三三一五万八六一九円及びこれに対する昭和六一年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告のその余の請求、乙事件原告の請求をいずれも棄却する。

三  甲事件の訴訟費用は、これを二分し、その一を甲事件原告の負担とし、その余を被告らの負担とし、乙事件の訴訟費用は、乙事件原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

1 被告らは、原告に対し、連帯して、金六七三四万五三二二円及びこれに対する昭和六一年四月一七日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告らの負担とする。

3 1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

(乙事件)

一  請求の趣旨

1 被告らは、原告に対し、連帯して、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年四月一七日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件)

一  請求原因

1 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 昭和六一年四月一七日午前一一時三〇分頃

(二) 場所 大阪市此花区島屋三丁目七番二三号山本正博方ガレージ内(以下「本件ガレージ」という。)

(三) 加害者 普通貨物自動車(大阪四〇な八一二)(以下「被告車両」という。)

(四) 運転者 被告野上修(以下「被告野上」という。)

(五) 事故態様 被告野上は、被告車両を運転して、制限速度時速二〇キロメートルであるのに、時速約六〇キロメートルで東進中、前方、右方、左方に対する注視を怠り、ハンドル操作を誤つた過失により、本件ガレージに突つ込み、原告山本マリ子(以下「原告マリ子」という。)に被告車両前部を衝突させて、転倒させた。

2 責任

(一) 被告野上は、制限速度を遵守せず、前方及び左右に対する注視を怠り、ハンドル操作を誤つたことによつて、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づいて、本件事故によつて発生した損害を賠償する責任がある。

(二) また、被告阪急写真工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告車両の所有者であつて、本件事故当時、自己の営む業務のために、被告野上に被告車両を貸与使用させていたものであるから、使用者として民法七一五条に基づいて、保有者として自賠法三条に基づいて、本件事故によつて発生した損害を賠償する責任がある。

3 傷害及び後遺障害

(一) 傷害

原告マリ子は、本件事故によつて、多発性骨折(右下顎骨骨折、右助骨骨折、右骨盤骨折、右手第三・四・五骨折等多数)、開放性両大腿骨骨折、右橈骨骨折、右大腿挫滅創、右膝挫滅創、出血シヨツク、膝窩動静脈神経断裂の傷害を負つた。

(二) 治療経過

原告マリ子は、本件事故に基づく傷害によつて、大阪府立病院(以下「府立病院」という。)に、昭和六一年四月一七日から同六三年一月三一日までに一五五日間、同年八月六日から同年一〇月三一日までの八七日間、平成元年九月二五日から同三年一〇月二四日までの一六三日間入院し、昭和六一年六月一〇日から平成元年三月二日まで(実通院日数一九日)、同月三日から同三年一二月三一日まで(実通院日数五一日)、同四年一月一日から同五年六月三〇日まで(実通院日数三四日)通院し、鎌田病院に、昭和六一年六月九日から同六三年一月三一日までの三四九日間入院し、昭和六一年四月一七日(実通院日数一日)、同年六月九日から同六三年一月三一日まで(実通院日数五七日)、同年三月一日から平成元年三月二日まで(実通院日数七一日)、同月三日から同二年三月二日まで(実通院日数一一〇日)、同年六月一日から同四年一二月二四日まで(実通院日数二一一日)通院し、治療を受けた。

(三) 後遺障害

原告マリ子は、平成元年三月二日症状固定したが、後遺障害として、一二級相当の右下肢の醜状がある他、右膝関節(人工関節)伸展強直、右足関節完全運動麻痺、右脛骨神経・総腓骨神経麻痺、右膝関節部慢性感染証の諸症状が認められるところ、右膝以下の機能障害については、担当医は、感染症を理由に、切断が適応と判断しているもので、一下肢の用の全廃として五級の障害があると評価すべきものである。

4 損害

(一) 治療費

(1) 症状固定日である平成元年三月二日までの患者負担額五九三万六〇六五円

(2) 症状固定日以降平成五年六月末日までの患者負担額 一二五万八二一九円

(府立病院八五万九八〇〇円、鎌田病院三〇万二六九〇円、中島薬局九万五七二九円)

(3) 将来の治療費 三一二万九二四一円

〈1〉 二五九万〇〇二一円

原告マリ子は、症状固定日以後も右膝関節部慢性感染症が認められ、治療を継続し、平成三年にも再手術が二回行われており、現在でも抗生物質の投与、消毒等の治療が続いており、担当医によると、右症状は今後改善する見込がなく、終生右治療を継続する必要があるから、原告マリ子は右(2)期間経過後も過去一年間の治療費と同額の治療費を将来にわたり支出しなければならず、平成四年一月一日から平成五年六月末日までの一八か月間に原告マリ子が負担した治療費から一年間の平均値を求めると一五万〇三九九円となる。

そして、原告マリ子は平成五年七月現在五六歳であるから、その平均余命は二八年であるので、新ホフマン係数で中間利息を控除すると、左の計算のとおりとなる。

15万0399円×17.221

〈2〉 五三万九二二〇円

原告マリ子は左足大腿部に埋められている金属プレートを抜くための手術を将来必ず行う必要があり、将来右下肢切断手術をすることも十分考えられるところ、その費用は、その規模からして、原告マリ子が、これまで受けた二回の右足膝蓋骨摘出手術を受けるため負担した五三万九二二〇円を下回ることはない。

(4) 歯科治療費 五五万三三三〇円

(二) 付添看護費

(1) 入院付添費 三三九万三〇〇〇円

原告マリ子は、症状固定日以後も前記手術のため入院しており、入院期間は合計して七五四日間であるところ、一日当たりの入院付添費を四五〇〇円で計算すると、右のとおりとなる。

(2) その余の付添費(平成五年六月末日までの分) 四六九万五〇〇〇円

原告マリ子は、右下肢の用を全廃し、一人で歩くことができないのは勿論、家族の介添えなくしては寝起きもままならず、入浴その他の日常生活が一人でできない状態が現在でも続いているから、通院の際及び自宅にいる時も常時近親者の付添が必要であつて、事故当日である昭和六一年四月一七日から平成五年六月末日までの合計二六三二日間のうち、入院期間合計七五四日を除くその余の日数一八七八日について一日当たりの近親者付添費を二五〇〇円として計算すると、右のとおりとなる。

2500円×1878=469万5000円

(3) 将来の介護料 一五七一万四一六二円

原告マリ子は、将来にわたつて右(2)と同様の近親者の介護が必要であるところ、前記のとおり、原告マリ子の平均余命は二八年であるので、新ホフマン係数で中間利息を控除すると、右のとおりとなる。

2500円×365×17.221

(三) 入院雑費 九八万〇二〇〇円

1300円×754日

(四) 医師への謝礼金 五〇万円

(五) 休業損害 七〇七万三五〇〇円

20万2100円(49歳女子の年齢別平均給与額)×35か月

(六) 入通院慰謝料 四〇〇万円

(七) 逸失利益 二〇九四万四八九五円

原告マリ子は、前記後遺障害によつて、労働能力を七九パーセント喪失し、その喪失期間は原告が六七歳に達するまでの一五年間であるから、後遺障害による逸失利益は左のとおりとなる。

241万4400円(52歳女子の年齢別平均年収)×0.79×10.981(新ホフマン係数)

(八) 後遺障害慰謝料 二〇〇〇万円

原告マリ子は、右下肢の用の全廃に加えて、難治性感染症の合併があり、いまだ排膿が持続して毎日の処置、抗生物質の投与が必要であり、今後全身感染症も危惧されているところから、いつ右下肢が切断されるかも知れない恐怖にさいなまれており、現在右下肢には著しい醜状痕が残つているものであるから、右のとおりとなる。

(九) 家屋等改造費、調度品購入費 一三〇万三〇〇〇円

(1) 自宅の玄関改造費 四四万三〇〇〇円

(2) ベツド購入費 一三万円

(3) 足置き椅子三組 二三万円

(4) 風呂場の滑り止めタイル、洋式トイレの設定 五〇万円

(一〇) 装具代 八六万円

(1) 松葉杖 三六万円

一本六〇〇〇円、一年に二本必要として、今後一生使用する分

6000円×2×30

(2) 下肢装具 五〇万円

一式五万円を三年に一度とりかえるとして

5万円×10

(一一) 弁護士費用 五〇〇万円

(一二) 交通費 三一万円

本件交通事故の日である昭和六一年四月一七日から同年一〇月九日までの間に、府立病院に入院中の原告マリ子に付き添うために家族が支払つたもの。

(一三) 長男の休業損害 一七万五一八八円

原告マリ子の長男山本啓之が本件事故直後から一か月間入院中の原告に付き添うため会社を休み、その休業した日数に相当する給与を日割計算したもの。

5 損害の填補

原告マリ子は、本件事故によつて受けた損害の填補として自賠責保険より一三七一万円、被告らより一四七七万〇四七八円の計二八四八万〇四七八円の支払を受けた。

6 結語

よつて、原告マリ子は、被告らに対し、損害賠償金として連帯して金六七三四万五三二二円及びこれに対する昭和六一年四月一七日から支払済に至るまで年五分の遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1については、事故の場所と態様の点を除き、認める。

事故の場所は、本件ガレージ前の道路(以下「本件道路」という。)上であり、事故の態様は後記のとおりである。

2 請求原因2は認める。

3 請求原因3については、本件事故によつて原告マリ子に一二級相当の右下肢の醜状の後遺障害が発生した事実並びに原告マリ子が、鎌田病院に、平成二年一月三一日までに三四九日入院し、二四一日実通院した事実及び府立病院に平成元年三月二日までに二九三日間入院し、一九日実通院した事実は認め、症状固定時期、原告の後遺障害として右下肢の用が全廃となつた事実は否認し、その余の事実は知らない。

原告マリ子の右下肢の後遺障害は、自賠責保険においては六級七号(右膝関節及び右足関節の用廃)として後遺障害認定されており、それを超える障害はない。

4(一) 請求原因4(一)については、治療費のうち、鎌田病院の事故時から平成二年一月三一日までの合計一二七万四九〇〇円、府立病院の事故時から平成元年三月二日までの合計五一五万四〇三〇円、歯科分五五万三三三〇円は認め、その余の症状固定日以降の治療費については否認し、その余の事実については知らない。

症状固定後の治療費については因果関係がない。しかも、医学的にも右下肢を切断することが適切と考えられているのだから、右下肢を切断した場合との均衡上、右下肢保全のための治療費は少なくとも全額は肯定されるべきではない。また、右下肢切断の手術費は、右下肢保全のための将来の治療費とは相入れないものであるから、その双方を請求するのは二重請求に当たる。

(二) 請求原因4(二)については、昭和六一年六月九日から同年七月一九日までの期間の付添の必要性は認め、その余の付添については否認する。

入院看護については、府立病院は完全看護であるから、そこでは付添の必要がない。その余の付添費、将来の介護料は、右下肢のみの障害である原告マリ子については認めるべきではない。また、医学的に右下肢切断が相当の場合、未だ切断にいたつていない原告マリ子に、通常右下肢が切断された場合に否定される介護料を肯定すべきでない。

(三) 請求原因4(七)については、争う。

原告の後遺障害は、六級七号(右膝関節及び右足関節の用廃)と一二級一四号(右下肢の醜状)であり、実務上、併合し、五級相当と判断されているが、後者は収入を減ずるものでなく、前者の障害だけを考慮して、労働能力喪失率は六七パーセントとすべきである。

(四) 請求原因4のその余については知らない。

5 請求原因5の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、被告野上が、本件道路を西から東に向けて運転中、約六・三メートル前方を、突然、右から左に原告マリ子の飼犬が路上に飛び出したので、衝突を避けるため右にハンドルを切つたところ、本件ガレージ内でその犬と戯れていた原告マリ子がその犬を追い掛け、安全を確認せずに本件道路に飛び出した結果、本件道路に約一メートル進んだ地点で被告車両と衝突し、門柱との間に挟まれたものであつて、飼犬の管理上の過失、安全を確認せず、本件道路に飛び出した過失があるから、四割程度の過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

本件事故の態様は、請求原因記載のとおりであるから、原告マリ子にはまつたく過失はない。

(乙事件)

一  請求原因

1 本件事故の発生、被告らの責任並びに原告マリ子の傷害及び後遺障害

甲事件請求原因1ないし3のとおり。

2 損害

原告山本正博(以下「原告正博」という。)は、本件事故当時、船舶を所有してA重油を運搬する海運業を営んでいたが、本件事故により原告マリ子が入院したため、原告正博は二〇日間の休業を余儀なくされたうえ、原告マリ子に付き添う必要があつたので、日帰りの仕事しか請け負えなかつたため、運賃収入が減少し、ついには、平成二年三月末で廃業するに至つた。

そして、事故直前三年間である昭和五八年から同六〇年までの収入から固定経費以外の経費を控除した額の平均は、一九七五万三〇五〇円であつて、事故直後四年間である昭和六一年から平成元年までの平均年間所得を計算すると、一三三二万五三六五円となるので、その差額は六四二万七六八五円となり、事故後廃業するまでの四年間その損害は継続しているものであるから、その合計として二五七一万〇七四〇円の損害が発生しているところ、原告正博は、被告らから休業損害として二〇四万円の支払を受けたから、その差額である二三六七万〇七四〇円の損害がある。

3 結語

よつて、原告正博は、被告らに対し、損害賠償の内金として、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年四月一七日から支払済みまで年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1については、甲事件請求原因に対する認否1ないし3と同じ。

2 請求原因2は否認する。

仮に原告正博が海運業を廃業して、原告マリ子に付き添つたとしても、その必要性は認められず、それによる損害は相当な賠償の範囲を超える。必要性があつたとしても、その額の算定には、収益減少額でなく一日当たりの定額を基準とすべきで、それについては、原告マリ子が甲事件で請求済みである。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故の態様は、甲事件抗弁記載のとおりであつて、その主たる原因を作つた原告マリ子は、原告正博の妻であるから、原告正博の損害算定につき、原告マリ子の過失を被害者側の過失として過失相殺すべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

理由

一  本件事故の発生

甲事件請求原因1は、事故の場所及び態様の点を除き(これらの点については後述する。)、当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

甲事件請求原因2についても当事者間に争いはなく、被告野上は民法七〇九条、被告会社は民法七一五条、自賠法三条に基づいて、本件事故によつて発生した損害を賠償する責任を負う。

三  原告マリ子の傷害及び治療経過

原告マリ子が、鎌田病院に、平成二年一月三一日までに三四九日入院し、二四一日実通院した事実、府立病院に平成元年三月二日までに二九三日間入院し、一九日実通院した事実は当事者間に争いがなく、この事実に、甲第二ないし第四、第二一ないし第三二号証、第四四号証の一、二、乙第四ないし第六、第一三ないし第一九号証を合わせ考慮すると、以下の事実を認めることができる。

原告マリ子は、本件事故によつて、骨盤骨折、肋骨骨折、左大腿骨骨折、右大腿骨開放性遠位端粉砕骨折、右膝窩動静脈断裂、右脛骨・総腓骨神経断裂、右橈骨骨折、下顎骨折、顔面擦過創等の傷害を負つて、事故当日、鎌田病院に運ばれたものの、症状が重かつたため、大阪府立病院に転送され、右膝窩動静脈断裂等のため、出血が激しく、全身麻酔によつて止血術、血行再建術の手術を受けた。同日から同年六月九日までの五四日間同病院に入院し、左大腿骨の観血的整復固定術、右膝窩挫滅のため全身麻酔による腓腹筋移行術、植皮術等を受けた。症状が軽快したので、昭和六一年六月九日鎌田病院に転院(入院)して、リハビリを開始し、翌七月七日から起立訓練を開始したが、同月一九日、再度府立病院に転院し、同日から昭和六一年一〇月九日までの八三日間入院し、右大腿骨開放性遠位端粉砕骨折に対し全身麻酔による右膝人工関節置換術を受けた。昭和六一年一〇月九日から昭和六二年八月一二日まで、リハビリのため鎌田病院に入院した。

府立病院の担当医は、昭和六一年一〇月二八日、原告の後遺障害は右下肢機能障害(右足関節機能全廃、右膝関節の廃用)であつて、その総合所見として、右足関節自動運動不能、下垂足の状態、右膝窩動静脈損傷に対して、人工血管使用の為、膝関節運動は、出血の危険があり、出来ないと判断し、その障害固定又は障害確定(推定)をしたのは昭和六一年八月二九日である旨の身体障害者診断書を作成したが、その際、将来の再認定も必要との判断も記載していた。また、同病院の他の担当医は、翌六二年一〇月二九日、原告マリ子の自賠責保険後遺障害診断書を作成したが、その主な他覚的所見は、右下肢の醜状の他、前記とほぼ同様の内容であつたが、その頃以降の原告マリ子の状況は、右足に装具を付け松葉杖で歩行できるものの、その距離は約一〇メートル程度であつて、一人で入浴できず、よく転倒し、床で寝た状態から立つことができず、右下肢痛、しびれ感が継続し、椅子の生活で、洋式トイレしか使用できず、ベツドで寝ており、起立位が不安定のため不安感が強いというものであつた。

原告マリ子は、鎌田病院、府立病院に通院して、リハビリをしていたところ、昭和六二年九月二五日ないしそれ以前から、右膝からの排膿が始まつたので、鎌田病院及び府立病院において感染症予防のため抗生物質の投与等の処置を受けたが治らず、昭和六三年一月一四日から同月三一日まで府立病院に入院し、治療を受けたところ、排膿が一時止んだこともあつたが、また、始まり、同年八月六日から同年一〇月三一日まで府立病院に入院し、病巣掻爬術や持続洗浄チユーブ留置を受けた。

原告マリ子は、平成元年三月二日、府立病院で後遺障害認定されたが、その際の医師による他覚的所見及び検査結果は、前記同様の各症状に加え、右大腿骨遠位端粉砕骨折が開放性であつたため感染症を起こす可能性があり、現実に排膿があつた旨記載され、右下肢機能全廃の状態であるというものであつた。

その後も、原告マリ子の前記排膿は続き、感染症は慢性化し、再発を繰り返したため、平成元年九月二五日から同年一一月一四日まで、府立病院に入院し、掻爬、膝蓋骨切除術を受けた。

府立病院の担当医は、平成二年一〇月一二日、原告の症状としては後遺症診断時のものに加えて、感染症が難治性であり、毎日の消毒等の処理、抗生物質の投与が必要であつて、このような状態では、もはや機能を有する下肢とはいえず、また全身的合併症も危惧されるところから医学的には切断が適応であるが、本人の希望によつて切断に至つていないものであると判断している。

その後も、原告マリ子の感染症は進み、右膝部皮膚の欠損も目立つようになり、平成三年七月五日から同年一〇月二四日まで府立病院に入院して、同年七月七日ころに植皮術、同年九月頃にドレーンチユーブ留置術の施行を受けた。

平成五年七月二〇日時点の府立病院の担当医の診断によると、右足関節部開放骨折後人工膝部全置換術後慢性感染症との病名がつけられ、右下肢は感染症の痩孔が散発し、そこからの膿に細菌が検出され、皮弁形成等によつても治癒させることはできず、右大腿切断によるしか完治しないと思われ、感染に対してほぼ継続的に抗生物質の投与が必要であるとされている。

原告マリ子は、右膝の排膿部分については、通院の他、薬局でガーゼや消毒薬を購入し、消毒しており、担当医もその必要性を認めている。

また、原告マリ子の左大腿部に埋めこまれている金属プレートを抜釘する必要があるが、未だされていない。

結局、原告マリ子の府立病院への入院日数は四〇五日、実通院日数は、平成元年三月二日までが一九日、その後同五年六月三〇日までが八五日であつて、鎌田病院への入院日数は三四九日、実通院した日数は、平成元年三月二日まで一二九日、その後平成四年一二月二四日までで三二一日であつた。

四  原告マリ子の症状固定時及び後遺障害の程度

1  症状固定時期

前記認定の症状の経過を要約すると、以下のとおりである。

昭和六一年八月以降には、本件事故に基づく右大腿骨開放性遠位端粉砕骨折、右膝窩動静脈断裂、右脛骨・総腓骨神経断裂の傷害によつて、〈1〉右足関節機能全廃及びその領域の知覚鈍麻、〈2〉右膝関節の伸展不能、〈3〉右下肢醜状痕の点についてはおおよそ症状はおちついていたので、府立病院の担当医は、一旦、身体障害者診断書を作成したものの、当時においても将来の再認定は必要と考えており、また、昭和六二年一〇月二九日に、ほぼ同内容の自賠責保険後遺障害診断書が作成された。それと前後して、右膝遠位開放性骨折によつて、感染症が起こり、その程度が少しずつ深刻化し、難治性であることが判明したため、同病院の担当医は、平成元年三月二日には、その点も後遺障害と認め、その点も考慮すると、右下肢の機能の全廃と評価できる旨の後遺障害診断書を作成した。その後も、感染症はますます深刻化し、同病院の担当医は、平成二年一〇月頃以降は、全身への合併症の防止も考慮に入れると、医学的には、右下肢の切断が適応と判断しているものである。このような経過からすると、原告マリ子の症状が固定したのは、感染症が難治性であることが担当医によつて把握され、後遺障害の判断に加えられた平成元年三月二日頃と解するのが相当である。

2  後遺障害の程度

まず、右下肢の醜状が一二級であることには当事者間に争いがない。

次に、右下肢の機能の点については、右膝関節が常に伸展したままの状態であること、右足関節の機能が全廃していることに加え、右膝下については右脛骨・総腓骨神経断裂によつて感覚がない状態であること、難治性感染症の合併があり、排膿が持続して日々の処置が必要で、抗生物質の投与が不可欠であることを合わせ考慮すると、もはや機能を有する下肢とはいえないと解するべきであつて、五級七号に相当する後遺障害があつたと認められる。

五  原告マリ子の損害

1  治療費 七七四万二六一四円

(一)  平成五年六月末日までの患者負担額

(1) 症状固定日以前の治療費 五九三万一〇六五円

甲第七ないし第一四号証によると、右のとおり認めることができる。

(2) 症状固定後の治療費 一二五万八二一九円

症状固定日以降の現実に発生した治療費については、前記認定の原告マリ子の感染症の程度からすると、その処置をなさないことによつて、原告マリ子に重篤な障害が発生すること必至のものであるから、治療は必要不可欠なものといえ、本件事故と因果関係があるといえる。また、そのうち、原告マリ子の患部の消毒も必要なものであるから、このための出費も、本件事故に基づく損害と認められる。

甲第一六、第四二、第四三号証、第四四号証の二、三、第四五号証の一ないし一二五、第四六号証の一ないし八一、第四七号証の一ないし六、第四八号証の一ないし二四、第四九号証の一ないし二四によると、府立病院八五万九八〇〇円、鎌田病院三〇万二六九〇円、衛生費九万五七二九円の計一二五万八二一九円であると認められる。

(二)  将来の治療費

(1) 排膿に対する処置分 否定

医師は既に右下肢切断を適応と考えており、現在右足の保全を望んでいる原告マリ子も今後症状の経過によつてどのような決断をするかは確定しにくいものであるから、この処置に要する費用を算定することはできない(但し、甲第五〇号証によると、相当の期間右処置が必要であることは確実と認められるから、その点は、後述の慰謝料額の算定に当たり考慮することとする。)。

(2) 今後の手術分 否定

前記認定の治療経過からすると、左足の抜釘手術は、将来行われる蓋然性が高いといえるが、その金額の立証はなく、その他の手術については、将来の治療方針によつて、どれが必要かは未だ確定できない状態であるので、治療費としては認めることはできない(但し、これも、(1)同様、慰謝料額の算定に当たり考慮することとする。)。

(三)  歯科治療費 五五万三三三〇円

当事者間に争いがない。

2  付添看護費 三七〇万八〇〇〇円

(一)  入院付添費 七九万二〇〇〇円

原告マリ子の前記認定の治療経過や症状の経過に乙第一三ないし第一五号証を総合すると、右膝関節大腿骨置換術のための府立病院での入院が終了した昭和六一年一〇月九日までの一七六日間付添看護を要したものと解すべきところ、一日当たりの付添分としては四五〇〇円をもつて相当と認めるから、左のとおり算定できる。

4500円×176=79万2000円

その後の入院期間中については、付添の必要性を認めるに足りる証拠はない。

(二)  その余の付添費 二九一万六〇〇〇円

前記認定の原告マリ子の症状からすると、右足の障害によつて、外出歩行は困難というべきであるから、通院の際の付添は必要と解することができ、実通院日数に応じた通院付添費は認められるべきであるところ、前記のとおり通院日数は合計五五四日と認められ、一日あたり二五〇〇円と解するのが相当であるから、左のとおりの計算となる。

2500円×554=138万5000円

また、通院時以外の付添については、原告の退院後の症状は、ベツドからの寝起き、椅子からの立ち上がり、右下肢に装具を装着して、松葉杖を使つての一〇メートル程度の歩行は可能なものであるから、常時介護が必要なほどの症状とは認め難いが、前記症状の程度に、甲第五〇号証によつて認められる、府立病院の担当医が、原告マリ子は、右膝伸展不能のため、一人で入浴・外出はできないから付添いが必要と判断していることを総合考慮すると、ある程度の介護は必要と認められるところ、その程度は、一日あたり一〇〇〇円を要するものとして、口頭弁論終結時である平成六年一月二〇日までで、入通院日数を除いた一五三一日間について計算すると、左のとおりの計算となる。

1000円×1531=153万1000円

(三)  将来の介護料 否定

前記の将来の治療費と同様、その費用と継続するであろう期間を予測することは困難であるから、これを認めることはできない(但し、これも、甲第五〇号証により、相当期間ある程度必要であることは認められるから、慰謝料額の算定で考慮することとする。)。

3  入院雑費 九七万六三〇〇円

原告マリ子は、前記のとおり(ただし、二つの病院の重複分三日を除く。)合計七五一日間入院治療をしたものであつて、前記のとおり、症状固定後の治療も、本件事故と因果関係はあり、全期間について入院雑費を認めるべきものであつて、その額としては、一日当たり一三〇〇円が相当であるから、左の計算式のとおりとなる。

1300円×751=97万6300円

4  医師等への謝礼金 一〇万円

傷害の程度、手術の種類・回数、治療経過、複数の病院に通院したことを等を総合すると、一〇万円をもつて相当と認める。

5  休業損害 六九七万九一八六円

原告マリ子及び原告正博各本人尋問の結果によると、原告マリ子は、事故当時四九歳の健康な女子であつて、主婦として、家事に従事していたと認められるので、少なくとも原告マリ子主張の一月あたり二〇万二一〇〇円に相当する労働をしていたと認められるところ、本件事故時から症状固定時である平成元年三月二日までの三四か月一六日間稼働することができなかつたと認めることができるので、左の計算のとおり、休業損害が発生したと認めることができる。

20万2100円×(34+16÷30)=697万9186円

6  入通院慰謝料 四〇〇万円

前記認定の原告マリ子の傷害の程度、入院及び通院の各期間等に照らすと四〇〇万円をもつて相当と認める。

7  逸失利益 一八八二万九九九七円

原告マリ子は、主婦として稼働しており、労働可能年齢である六七歳まで、少なくとも原告主張の年収二四一万四四〇〇円の収入に相当する労働ができたと解すべきであつて、原告マリ子の後遺障害は前記のとおり一二級相当の右下肢醜状痕及び五級七号に相当する右下肢の用の全廃であるところ、原告マリ子は主婦であるから前者は労働能力に影響せず、結局、後者のみが労働能力を喪失させるものであつて、前記認定の傷害の程度からすると、喪失率は七九パーセントと考えるのが相当であるから、中間利息については、新ホフマン係数によつて中間利息を控除して事故時の評価を算定すると、左の計算のとおり逸失利益が発生したと認めることができる。

241万4400円×0.79×[12.6032{(67-49)年のホフマン係数}-{2.7310(52-49)年ホフマン係数}]=1882万9997

8  後遺障害慰謝料 一五〇〇万円

原告マリ子の前記の後遺障害の程度に難治性の感染症をかかえ、日々の処置が必要であつて、症状固定後も前記のとおり入退院や手術を繰り返して処置を受けている事実、前記の将来の治療費・介護費、後記の装具類について損害を確定することができないこと並びに後記の本件事故の態様を合わせ考慮すると、原告マリ子を慰謝するには、一五〇〇万円をもつて相当と認める。

9  家屋等改造費、調度品購入費 一三〇万三〇〇〇円

甲第一八、第一九号証の各一、二、原告正博本人尋問の結果によると、原告マリ子は、前記各後遺障害によつて、玄関改造費として四四万三〇〇〇円、ベツド購入費として一三万円支出を余儀なくされたことが認められる。また、弁論の全趣旨、原告正博本人尋問の結果によると、同様に足置き椅子を購入し、風呂場の滑り止めタイル、洋式トイレに改造をし、それぞれ、少なくとも原告主張の二三万円、五〇万円の支出をしたと認めるのが相当である。よつて、それらを合計すると、右のとおりとなる。

10  装具代 否定

前記認定の原告マリ子の後遺障害からすると、松葉杖及び下肢装具が必要不可欠であることは認められるものの、その価額、買い換え頻度についての証拠は、原告正博の本人尋問における供述しかなく、その内容も不確定なものであるので、結局、この損害額を確定することはできないので、前記のとおり、慰謝料において考慮することとする。

11  交通費 否定

これを認めるに足りる証拠はない。

12  長男の休業損害 否定

本件事故直後の原告の状態が重大であつたことからすると、その安否を気遣い、見舞うことは、親族の情愛の発露として当然ありうべきことではあるが、その期間の付添費については、前記のとおりであつて、重ねて長男の休業損害までは認めることはできない。

13  損害合計 五八六三万九〇九七円

六  過失相殺の主張について

1  本件事故の態様

(一)  甲第四一号証、検甲第一ないし第一一、第一六ないし第二一号証、乙第一、第二号証、証人松山八重子、同瀬川とき子の各証言、原告マリ子、原告正博及び被告野上各本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。

本件ガレージ前の本件道路は東西に伸びる直線路で、アスアルト舗装されており、平坦であつて、事故時乾燥しており、最高速度は二〇キロメートルに制限されていて、東行き一方通行で、一車線で北側に一・四メートル幅の歩道があり、車道幅は四メートルで、信号や横断歩道はなかつた。本件事故現場付近は閑静で人家の密集している住宅街であつて、交通は閑散であつた。その概況は別紙図面(一)、(二)のとおりである。

被告野上は、被告車両を運転して、本件道路を西から東に走行し、別紙図面(一)の〈1〉付近に差し掛かつた際、前方を右から左に向けて走つてきた子犬を前方約六・三メートルの〈A〉付近で認めたため、咄嗟にハンドルを右にきり、急ブレーキをかけたが、スピードが出ていたため、右方向に暴走し、同図面の〈4〉付近で原告ら宅の左隣りの門柱に原告マリ子ごと衝突し、被告車両は、その反動で、右門柱の四〇センチメートル西側に跳ね返され、停止した。この事故によつて、被告車両は前部左側のバンパー・パネルが著しく曲損し、フロントガラスも破損して、大破の状態となつた。なお、現場には、おおよそ同図面のとおり約二・二メートルの長さのスリツプ痕が付いていた。

原告マリ子は、本件ガレージの道路寄りの位置で犬の毛を解かしていたところ、犬が原告マリ子の手を離れ本件道路に飛び出した直後、被告車両の方を見て立ちすくんでいたところ、右態様で、被告車両に衝突され、別紙図面(二)のイの人型の位置に倒れた。

(二)  なお、原告マリ子の車道への飛び出しの有無について判断する。

この点について、乙第一号証の実況見分調書における被告野上の現場指示説明には、別紙図面(一)の〈ア〉付近から本件道路を横断する原告マリ子を見て、同図面の〈イ〉付近で衝突した旨の部分があり、被告野上はその本人尋問において、右〈イ〉の位置の原告マリ子を見たが、それまでは見ていないとしている。また、乙第四号証の鎌田病院のカルテには、原告が歩行中、車とコンクリートの壁に挟まれ負傷した旨の記載もある。そして、本件事故当日の実況見分調書には、原告マリ子の履き物が、被告野上が原告マリ子が立つていたとする同〈イ〉付近にあつたと記載されている。

しかし、事故態様からすると、被告野上の位置からは原告マリ子の位置は特定しにくいものであるし、また、原告正博本人尋問の結果によると、被告野上は本件事故発生直後から、犬が飛び出してきたことは何度も強く主張したものの、原告正博に対して、原告マリ子が飛び出したことを主張しなかつたことが認められ、被告野上の右各供述の内容が変遷していることからすると、それらの信用性には問題がある。また、カルテの点については、当時の事故状況をどの程度理解している人の申告によつて記載されたものかわからないので信用性は高くない。サンダルの点についても、乙第一号証によると、実況見分調書の作成が開始されたのは本件事故の一時間後であるし、被告野上の本人尋問の結果によると、その間、救急車が原告マリ子を運んだものであるから、衝突位置を特定する決め手にはならない。

一方、乙第二号証、証人瀬川とき子の証言によると、本件事故の直前(乙第二号証によると、歩行者で秒速一メートル前後と思われる瀬川が約一・四メートル歩き、後記認定のとおり時速五〇キロメートル即ち、秒速一四メートルを超えるスピードで走行していた被告車両が八・二メートル進む時間を加えた時間が経過した後、事故が起こつたものであるから、約一、二秒前と推測される。)、瀬川は、本件ガレージ内で座つて犬の毛を梳いている原告マリ子を見ていること、前記認定の本件事故後の原告マリ子の倒れていた位置からすると、原告マリ子は、本件ガレージ内で本件事故にあつたと推認するのが相当である。

(三)  次に、被告車両の速度であるが、被告野上は、その本人尋問で、メーターは見ていないが時速三〇キロメートルを超えていたと思うと供述するところ、別紙図面(一)の〈1〉と門柱の間は約一〇・二メートルあり、被告野上はブレーキを踏んだのに、被告車両には衝突の際跳ね返る程の運動量があつたこと、衝突によつて、被告車両の前部に著しい凹損が生じ大破していること、スリツプ痕が二・二メートルついていること、本件事故によつて、原告マリ子の前記の重大な傷害を負わせたこと等からすると、時速五〇キロメートルは超えていたと推認するのが相当である。

2  当裁判所の判断

右認定によると、衝突位置は本件ガレージ内であるから、原告マリ子の過失としては、その飼犬が道路を急に横断することを防がなかつた点が問題となるのみである。一方、被告野上には、密集した住宅街で横断者や車道を歩行する者が予想される、最高速度二〇キロメートルと制限されている道路を、時速五〇キロを超える速度で走行した上、目の前に子犬が走り、それを避けるためとはいえ、周囲の状況をまつたく考えず、右にハンドルを切り、本件ガレージまで進入して、そこにいた原告マリ子に衝突して、本件事故を引き起こした過失がある。したがつて、本件事故のほとんどの原因は、道路状況に一致しない危険な運転をし、それによつて、適切なハンドルブレーキ操作をすることができなくなつた被告野上にあるということができ、これと対比すると、原告マリ子の飼犬管理上の過失はさほどのものとは評価できないから、過失相殺の主張は採用しない。

七  填補

本件事故に基づく損害の填補として、二八四八万〇四七八円の支払があつたことは当事者間に争いがなく、それを控除すると、原告マリ子の損害は三〇一五万八六一九円となる。

八  弁護士費用 三〇〇万円

本人訴訟の経過、認容額等に照らすと、三〇〇万円をもつて相当と認める。

九  原告正博の請求について

原告正博の請求はすべて、本件事故に基づく傷害によつて、原告マリ子に付き添う必要が生じたことを理由とするところ、前記五2(二)述べたように、原告マリ子の傷害は、常時付添を要するほどのものではなく、付添費については、前記認定のとおりであるから、重ねて認めることはできない。

一〇  結論

よつて、原告マリ子の甲事件請求は、三三一五万八六一九円及びそれに対する昭和六一年四月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は棄却するものとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、原告正博の乙事件請求は、理由がないからこれを棄却するものとし、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民 水野有子 村川浩史)

別紙(一) 交通事故現場見取図別紙(二) 交通事故現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例